REPORT活動レポート

日本の事例から考える「公正な移行」推進のポイント

活動レポート

2023年4月、ジャストラ!のキックオフセッションを開催しました。 本レポートでは、このキックオフセッションにて共有されたリサーチ結果をお伝えします。 リサーチは、セッションのファシリテーターも務めた、株式会社風とつばさの水谷衣里氏によって担われたものです。

関連記事:「キックオフセッション開催しました」
https://justra.etic.or.jp/report/79/

本リサーチのテーマは、「事例から考えるJust Transition実施におけるポイント」です。

リサーチは、
①何らかのトランジションを経験している地域から学ぶこと
②各地域の経験から、ジャストラ!推進におけるヒントを抽出し、仮説として共有すること を重視し行われました。

取り上げたのは、
1.岡山県西粟倉村
2.北海道下川町
3.島根県海士町
の3つの地域です。

 

事例1.岡山県西粟倉村

【西粟倉村の概要】

・人口約1,400人、村の面積の95%を森林が占める。

・平成の大合併の際、合併しないことを選択。村の存続のための方策を模索し始める。(2004年)

・その後の村の方向を決定づける「百年の森構想」を策定。(2008年)

・移住者や外部人材とともに自立にむけた挑戦を開始、具体的な取組みが拡大。(2009年(株)西粟倉森の学校、共有の森ファンド立ち上げ、など)

・2010年代半ばに、起業人材の育成やローカルベンチャー支援が本格化。(2015年西粟倉ローカルベンチャースクール開始、など)

・2010年代後半からは、エネルギーや脱炭素、SDGsに紐づく取り組みが拡大していった。(2019年、内閣府「SDGs未来都市」に選定、2022年第1回脱炭素先行地域に選定、など)

【西粟倉村の取り組みのポイント】

1. 「百年の森構想」を通じて村全体のビジョンが形成された。それを起点に森林の一括管理が可能になり、村民が森林資源の今後を「自らの問題として」考えられる環境が生まれた。

2. 担い手となる中核人材があらわれた。地域内外から集まる挑戦者を各プロジェクトの中核的な担い手に据え、取り組みを村全体で支えた。

3. 森林資源の徹底活用と付加価値の拡大を目指した。その結果、バイオマスや地域熱供給、村産材を活用した拠点整備などへと取り組みが広がっていった。  

事例2.北海道下川町

【下川町の概要】

・人口約3,100人、石炭や銅、金・銀を採掘していた鉱業の町。

・1960年代に鉱山が相次いで閉山、産業構造の変化により人口が著しく減少した。

・危機感を持った町の有志が「下川産業クラスター研究会」を設立(1998年)。ここでの議論をもとに木質バイオマスボイラーや地域熱供給システムなどの取り組みが進んだ。

・町内のボイラー導入拡大に伴い、チップの製造と安定供給のための体制を構築。2009年には木質原材料製造施設や下川エネルギー供給協同組合の設立が進められた

・町内にある一の橋地区を集住化のモデルエリアに指定し、熱供給施設を中心とするまちづくりを実施した(2013年)

・下川町版SDGsの策定を通じて、町の将来を改めて議論した(2018年)。

【下川町の取り組みのポイント】

1. 下川産業クラスター研究会を通じて、町のグランドデザインが共有され、新産業創出や木質バイオマス利用に対する町全体の合意が形成されていった。また第三セクター内に推進組織を置き、実践を進める体制を採った。

2. 事業面・雇用面で最も影響を受ける地元のエネルギー事業者との対話を重ねた。結果としてガソリンスタンドや灯油販売事業者等5者が協同組合を設立し、木質原料製造施設の管理運営を担うこととなった。

3. 循環型森林経営を徹底し、利益を次の投資や町内での雇用の創出に生かす工夫を行った。

事例3.島根県海士町

【海士町の概要】

・人口約2,200人、1島1町の自治体。

・人口減少と行財政危機の中、公共事業からの脱皮と行財政改革を開始。(1999年「行財政改革やるぞ計画」策定、2004年「海士町自立促進プラン」策定、など)

・2000年代以降、産業・雇用創出の取組みを本格化。(岩ガキ「春香」の事業化、隠岐牛のブランド化、天然塩の生産、新しい冷凍技術の導入など)

・島唯一の高校である「島前高校」の存続危機に直面し、高校魅力化の取組みを開始。(2008年)

・2010年代前半からは、エネルギー自給に向けた取組み、次世代に向けた新たな戦略と実践を開始。(2014年(一社)島前ふるさと魅力化財団設立、2015年「あすあまチャレンジプラン」策定、2019年、国交省「脱炭素社会モデル事業」に選定、など)

【海士町の取り組みのポイント】

1. 「海士町自立促進プラン」や「行財政改革やるぞ計画」、また町の三役や職員の給与カットなどを通じて、行財政上の課題と危機感が島内で広く共有されてきた。

2.「守るために変える」という意識が徹底されていた。島の伝統文化を守るために何を変えるべきか、というスタンスで議論が行われたことで、思い切った変革が受け入れられるようになった。

3.対話とリアルの挑戦のバランスがとれていた。「海士町の未来をつくる会」などを通して島民相互の対話が徹底され、他方で個々のプロジェクトでは挑戦者を大切にし、リアルな変革を重ねた。

以上の事例からわかる「公正な移行」推進の前提条件とは?

▷地域がいま置かれている状況(与件)を把握できていること
・取り組みを進めるにあたり、自らが置かれた状況を客観的に捉えていることが必須
・状況把握は危機感の共有や変革の必要性に対する共通認識を生み出すベースとなる。

▷最上位のビジョンへの合意が存在すること
・「何を守り、何を変えるのか」の合意と共有が、変化を受け入れる土台となり、結果としてHow(方法論)の決定を速める。

「公正な移行」推進のポイントとは?

▷地域資源の捉え直しと積極活用、付加価値化
・自らの価値や強みを捉えなおすことで、取り組みの方向性が明らかに
・限られた資源を徹底的に活かし、新たな産業と雇用の創出へつなげることが重要

▷合意形成の先行的アクションのバランス
・丁寧なビジョン形成と、スピード感をもった先行的アクションとのバランスが重要
・トランジションから取り残されかねない人への目配りは必須。そうした主体との対話やチャネル形成を厭わないこと

▷変革の担い手の確保と意志の尊重
・新たな取り組みには変革の担い手が必要
・過去の産業構造や商習慣に囚われすぎず、担い手を地域で「支える意志」を明確に持つことが重要