REPORT活動レポート

「公正な移行」とは?~世界の動向

活動レポート

以下は、2023年4月19日のジャストラ!キックオフ・ミーティングにおいて、本プログラムを支援するJPモルガンのプロボノチームから共有された内容の要約です。

 

1.「公正な移行」とはなにか?

・背景にあるのは地球環境の危機。パリ協定(気温上昇2℃目標、1.5℃以内に抑える努力)は採択されたが、各国の達成度には差がある。今後、気候変動対策は急激に進展するはず。

・しかし、気候変動対策だけを進めると、既存の産業の廃止による失業発生などネガティブな影響が出る。あらゆる地域・産業で新規雇用創出・人材育成を行い、悪影響を最小限&好影響を最大限にしようというのが「公正な移行」の考え方。

・現実には2050年までにカーボンネットゼロ(パリ協定1.5℃を満たす基準)が達成できる見込みの国は少ない。一方、2030年までに世界のエネルギー供給は需要に対して20%足りなくなる可能性がある。化石燃料の供給は減り、再エネは増えるが足りない(JPモルガンのリサーチによる)。 ・これらの課題解決のためには、政策まかせでは不十分であり、各地域・事業者が自主的・段階的にアプローチすべき。

・日本の労働市場の実態を仕事の「量・質・包摂性」で見ると、今後、「量」はほどんど増やせない。「質」の改善の余地はある。「包摂性」はOECD平均よりかなりパフォーマンスが低い(ジェンダーギャップ、LGBTQ、外国人、障がい者など)。雇用市場は量から質へ転換し、個人が主体性をもって変革する局面になっていく。従い、個人が主体の中小企業による「公正な移行」は大きな意味を持つ。

・いまやESG投資は世界の運用資産の3割超。日本は24%で世界よりも低いが、ここ数年で急上昇し、これからも増える。公正な移行を考える上でも大きな流れである。

2.「公正な移行」のグローバルにおける実例

・うまくいっていない例が米国インディアナ州ゲーリー。60年代までは製鉄業で繁栄したが、その後縮小。人口は2020年までに6割減少。大量の失業者が出て治安も悪化。こうなってしまった原因は、単一の産業・単独企業に依存しており、そこが衰退すると他に頼るものがなかったことと考えられる。

・成功事例のひとつがドイツのブレーマーハーフェン。戦前から造船業が雇用を支え、戦後は駐留米軍を中心に経済圏が形成されていたが、80年代の東西ドイツ統一で米軍が撤退すると経済圏が崩壊した。そこで市政府が経済復興チームを結成し、比較優位な地域資源として洋上風力に着眼。長期人材育成を含めた新たな産業サイクルづくりに成功。地域の中小企業の取引先が、以前の造船メーカーから洋上風力企業に変わることで雇用が守られた。

・もうひとつの成功事例はデンマークのロラン島。80年代以前は造船所が雇用を支えたがその後閉鎖。風況を生かして地元の農家が風力発電を広め、再エネを推進する国策も追い風になり、風力発電を中心とする経済圏をつくった。成功の原因は、地元農家が自分たちで地域の持続可能性を考え抜き、実行に移したことだ。

・デンマークが「公正な移行のフロントランナーと言われる理由は、2030年までに温暖化ガス70%削減という高い目標(EUは55%)を掲げており、気候変動対策をそれほどドラスティックにやるなら、そのぶん公正な移行にも注力しなければならないと国民が理解しているため。

・デンマークの再エネ自給率55%に対し日本はまだ13%。先進国のエネルギーミックスを比べると、日本は火力が7割を超え、他より圧倒的に高い。国の第6次エネルギー基本計画では、再エネを36~38%へ引き上げ、火力を4割まで減らすとなっているが、本当にその達成を進めるなら関連セクターで雇用が減少する可能性がある。 ・ここで注意すべきは、電力セクターの労働者の3~4割がまだ若く、20年後も現役世代ということ。ここでの公正な移行について、一人ひとりが当事者意識もって注視すべき。

・日本ではまだ巷に失業者があふれかえる状態になっていないが、エネルギー転換が起こるときは雇用も急に動く。将来、失業者が急増する可能性はある。いまの日本のアクションの遅さは「ゆでガエル」状態に例えられる。いまはぬるま湯でも10~20年後に危機は突然やってくる。公正な移行は長い時間をかけて実施すべきで、1日も早く始める必要がある。